グラフェンという素材をご存知でしょうか。なじみのある炭素原子からできたもので、多方面に優れた特徴を持ちます。
そんなグラフェンの基礎知識や種類、用途などについて解説します。また関連する温熱素材も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
グラフェンとは
グラフェン(graphene)とは、炭素原子が結びついた素材のことです。
炭素が六角形の編み目のように結びついていて、非常に薄いシート状になっています。 グラフェンの語源は、グラファイト(graphite)。グラフェンは6個の炭素原子からできている正六角形の分子構造(ベンゼン環)をもつ炭化水素、「芳香族炭化水素」の仲間でもあります。
グラフェンの特徴
炭素原子からできているグラフェンは、どのような特徴をもっているのでしょうか。
1. 強度が高い
1つ目の特徴は、強度が高いことです。なんとダイヤモンド並みの強度があるので、壊れてほしくない部分に多く使用されています。
2.非常に薄い
2つ目の特徴は、非常に薄いことです。グラフェンは一層でも成立する物質なので、非常に薄い素材として知られています。 どれくらい薄く作れるかというと、1g当たり2,600㎡程度の単層にできます。これはテニスコート10面分に相当する広さです。グラフェンがいかに薄い素材であるかがよくわかりますね。
3.熱伝導性に優れている
3つ目の特徴は、熱伝導性に優れていることです。グラフェンには非常に早く熱を伝える性質があり、熱伝導性がよいとされるダイヤモンドを超えます。こうした性質から、温熱素材によく使用されています。
グラフェンの価格
さまざまな特徴をもつグラフェンですが、どれくらいの価格で取引されているのでしょうか。
基本的には1cm四方で3万円ほどと、比較的高価といえます。サイズが大きなものほど高値で取引されます。また、粉末状でも購入可能です。
グラフェンの種類
グラフェンにはいくつかの種類があります。それぞれの概要や性質を見ていきましょう。
酸化グラフェン
酸化グラフェンは、豊富な酸素官能基(酸素の原子団を指す)をもち、グラフェンよりも高い分散性のある素材です。
分散性とは、粒子のほぐしやすさのことです。この分散性があるからこそ、さまざまな材料との複合化がより簡単になっています。塗膜や機能性膜として使用されているグラフェンは、この酸化グラフェンが多いです。
溶剤分散型酸化グラフェン
溶剤分散型酸化グラフェンは、酸化グラフェンの特性をそのままに、よりさまざまな有機溶剤への分散性を向上した素材です。ケトン類やアルコール類との親和性がさらに高まっています。
高分散性還元型酸化グラフェン
高分散性還元型酸化グラフェンは、酸化グラフェンをさらに還元したタイプです。その名の通り高い分散性を発揮します。
グラフェンの活用例
グラフェンは高い利便性があるため、さまざまな製品に活かされています。その一例を紹介しましょう。
グラフェントランジスタ
トランジスタとは、電気の流れをコントロールする部品のこと。
シリコン製の「シリコントランジスタ」や、グラフェン製の「グラフェントトランジスタ」などがあります。
グラフェン製のトランジスタの特徴は、シリコンの100倍も電子移動度に優れていること。その結果、消費電力をシリコン製トランジスタの100分の1まで抑えることが理論上可能なのです。
省エネルギー化をより促進する意味合いもあって、グラフェントランジスタの実用化に向けた取り組みが進んでいます。
ディスプレイへの利用
グラフェンは次世代型のスマートフォンやタブレット、テレビなどに用いられています。用途は発光デバイス部分です。従来よりも薄く、フレキシブルで高い耐久性を持つ発光デバイスの素材として使用されています。グラフェンは透明性が高い一面があり、こうしたデバイスに適しているのです。
二酸化窒素を測定するガスセンサー
グラフェンは二酸化窒素を測定するガスセンサーにも使用されています。
二酸化窒素ガスの分子は非常に小さく、この分子を測定するために、さらに小さな網状の分子構造を作ることができるグラフェンが適しているからです。
二酸化窒素は、喉や気管、肺などに悪影響を及ぼす可能性があるため、グラフェンによる測定は重要だといえます。
グラフェンの太陽電池への利用
グラフェンはその導電性や透過性などの特性から、太陽電池デバイスにも利用実績があります。グラフェンを利用した太陽電池に、酸化モリブデンや酸化亜鉛層を合わせると、効率よく稼働するのです。
温熱素材への利用
グラフェンの薄さや熱伝導性のよさを活用し、温熱素材が開発されています。この活用方法はまだ多く知られてはいないので、今後ますます研究・活用が進むと見られています。
グラフェンと同様なナノカーボンの温熱素材とは
グラフェンと同様なナノカーボンの温熱素材が、「カーボンナノチューブ」です。
カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブとは、炭素原子のみで構成された網状の素材です。
英字の頭文字を取って「CNT」ともいわれます。ナノレベルという非常に小さな単位で構成されているのが特色です。
この素材は、1991年に飯島澄男博士によって発見されました。その後、商用化や量産化に向けた研究が進められ、近年になってカーボンナノチューブを活用した製品が複数出回っています。
カーボンナノチューブの特徴
このカーボンナノチューブには、温熱素材としての製品化に適した特徴があります。それは次の3点です。
- 非常に軽い
- 非常に丈夫
- 弾力性がある
それぞれの内容を解説しましょう。
1. 非常に軽い
カーボンナノチューブはグラフェンの特徴をそのまま引き継ぎ、非常に軽量な素材です。温熱素材として活用する際は、布地に貼り付けたり布地の間に入れ込んだりして活用します。カーボンナノチューブはとても軽いので、利用者への負担が軽減できるのです。
2.非常に丈夫
カーボンナノチューブはグラフェンの「ダイヤモンド並みの強度」を活かし、非常に丈夫な素材になっています。従来温熱素材に使用されていたニクロム線などの電熱線は、断線の危険性がありました。しかしカーボンナノチューブであれば、断裂する危険性がかなり低いので、より安心して利用できます。
3.弾力性がある
弾力性に優れているのも、カーボンナノチューブの特徴です。ナノレベルの網状構造で、非常に薄い一層構造も可能なことから、この弾力性が生まれました。軽さとも相まって、布地につけて利用されやすくなっています。
JERNANO(ジェイナノ)「CNTフィルムユニット」とは
多様な特徴をもつカーボンナノチューブを活用し、JERNANO(ジェイナノ)が開発、量産化に成功したのが「CNTフィルムユニット」です。
カーボンナノチューブでできた面状の発熱シートを断熱材で覆い、さまざまな温熱製品に活用できるように作られました。中国ではすでに複数の特許を得ており、日本でも今後展開される予定です。
CNTフィルムユニットの特徴
CNTフィルムユニットにはさまざまなユニークな特徴があります。ここではその中の4点を紹介しましょう。
1. 非常に薄い
1つ目の特徴は、非常に薄いことです。カーボンナノチューブやグラフェンの特徴をしっかりと引き継ぎ、薄い素材として利用できるよう作られています。 この薄さがあるからこそ、コートやジャケットなどの重い素材につけても、さらなる分厚さを感じにくいのがメリットです。また、インナーなど薄い素材に付加しても、ゴワつきを感じにくくなります。
2. 超軽量
2つ目の特徴は、超軽量な点です。CNTフィルムユニットはその素材の特性から、1㎡あたり5gという軽さを実現しています。とても軽いので、重い布地などにつけても重さがプラスされた感覚がほとんどありません。
3.瞬間的に暖まる
3つ目の特徴は、瞬間的に暖まる「瞬足発熱」です。シートの一端に電流をかけると、最短1秒で発熱し、規定の温度まですぐに到達します。 従来の温熱製品のユーザーからは「暖まるまでに時間がかかる……」といった声も聞かれますが、CNTフィルムユニットを使用すればこのようなクレームはなくなるでしょう。
4.折り曲げに強い
4つ目の特徴は、折り曲げに強い点です。CNTフィルムユニットはグラフェンのもつ強度や分散性を活かしていて、布地につけたときに布同様にしなやかな動きを発揮できます。 また折り曲げ耐性があり、開発時の実験ではなんと10万回の折り曲げに耐えることができました。従来の電熱線のような断線リスクがほぼない点も、嬉しいポイントです。
まとめ
カーボンナノチューブは炭素原子からできた物質で、強度が高くて薄く、熱伝導性に優れているなどの特徴があります。
この特徴を活かしたのが、CNTフィルムユニットです。今後温熱素材への活用が期待されます。